お店のちょっとした遊び心 | |||||||||||||||||||||||
試飲日 2002年03月05日 昼 | |||||||||||||||||||||||
<遊び心> 今回のワインは特別企画です。都内フレンチ・レストランで、アルノーアントとジャンガローデのバイ・ザ・グラスと共に素敵な食事を堪能した後に、もう一杯いかがですかと、お店側からの提案で実現した。初めての客にもかかわらず、ソムリエやギャルソンと意気投合し、特別なご好意により提供していただいたものである。おそらくは昨夜のパーティの残り物かと思われるが、それにしてはたいそうなワインらしいのでありがたく頂戴することとした。ちなみにグラスで2000円。推定残り物にそんな金を取るのかと嘆く声は無視しよう。帰宅後ネットで調べると新品で35,000円ほどしていた。それをワイン売り場の有料テイスティングではなく、昼間とはいえ、日本三大グランメゾン一角にて食後のチーズと頂くことに、豪華なうれしさが募ったりする。 今回は銘柄を伏せてのいわゆるブラインド・テイスティングでいかがですか、とのお店側の提案にそっと頷いていた。会話のなかでブルゴーニュ好きであるとソムリエに認識してもらいつつ、それを承知で何を出してくるのか楽しみだ。 <グラスの用意> グラスはバカラBaccaratのサンテミリオン専用グラス。グラス名を言い当ててしまうことに、ソムリエの動揺が見える。これは楽しみになってきたとの表情を浮かべ、ワインを用意するためソムリエは一度フロアを出ていった。サンテミリオングラスについては先月バカラショップで店員にいろいろ聞いていたので、知っていただけのこと。この特徴あるグラスは一度聞いたら忘れないインパクトがあったりする。サンテ・ミリオンといえばボルドー右岸の銘醸地だ。メルロとカベルネ・フランが主品種で、メドックとは一線を画す味わいだが、ブルゴーニュ飲みにはやや苦手なアペラシオンだったりする。思い浮かぶ銘柄は数種類しかない。 <味わい> 熟成感のある質感を伴い、土っぽいやさしい味わいに、やや草を感じるブーケがある。下司な言い方をすればメルローらしい「めるめる」する味わいで、ピノ・ノワールとは全く違う味わいに、新鮮な悦びが細胞を刺激する。飲むごとに味覚を司る器官がぴくぴく反応している。ソムリエの微笑がグレートワインですよと言わんばかりである。 <やりとり> ポムロールかサンテミリオンのどっちかなと、聞こえるように囁くと、ソムリエはにやりと微笑みメルロー主体ですが、実はメドックなんですよとすばらしいヒントを与えてくれる。メドックでメルローの比率が高いものとなると・・・。コスデストゥルネルはもっと湿った土壌香だったよなと考えをめぐらせていると、同席の某女史がずばりと銘柄を言い当てた。 <ワイン> シャトー・パルメ Château Palmer の1988年だった。 <楽しいテーブル> ソムリエのやさしい微笑が驚きに変わり、豪華なワインを出していただいたことに恐縮しつつ、大いに話題も盛り上がる。なんだか素敵な時間の過ごし方だ。昨夜の残りを捨ててしまうには高価なワイン。しかし通常のグラスワインで出すと高くて手が出せないし、他のワインとのバランスも取れない。そんなソムリエの悩ましい残り物を、こんな形でサービスされるとうれしくなる。ワインの喜びをレストラン側とも共有できた感があり、初めての客ですら常連のようなサービスしてくれるのもうれしかったりする。これもワインの共有が達成できたための配慮だろう。グランメゾンで遊び心をくすぐられ、格調高いレストランでのほっとした安らぎに、また来ようと思わせる。すばらしい。ワインを知ってて良かったと思う瞬間でもある。そしてお店からのおごりのサディニャン種のヴァン・ド・リケールを頂きながら、次ぎの問題を用意したがるソムリエに軽く会釈して、素敵な食事は終わったのだった。 このレストランについては別の機会にコラムにまとめてみたい。 以上 |