ドメーヌ・ユベール・リニエ
試飲日 2002年3月23日 
場 所    神奈川県某所m 
照 明 蛍光灯
種 類 フランス AOC赤ワイン
生産者 Domaine Hubert LIGNIER (Morey-Saint-Denis)
Vintage 1997
テーマ 史上最高のクロ・ド・ラ・ロッシュに入魂
ワイン Clos de la Roche Grand Cru
 
<はじめに>
 
今回はスペシャル企画です。日頃よりたいへんお世話になっている某氏ご提供により、某所特設ルームにて某女史と某氏とともに堪能させていただいた。文頭にて感謝申し上げると共に、二日連続のモレ・サン・ドニの偉大なワインとの出会いに感激である。

<クロ・ド・ラ・ロッシュ 1997>

 抜栓後しばらく置いてブルゴーニュ・グランクリュグラスへ()。黒々とした深いルビー色。これほどまでに質感のある黒はピノ・ノワールでは珍しい。意外な黒さにびっくりだ。エッジにムラサキはなく、光に透かせば美しくルビー色に輝いている。鼻をグラスに近づけようものなら、この圧倒的なアロマに度肝を抜かれる。スミレを中心にした華やかな花のアロマが充満しているからだ。お花畑に顔を埋めたまましばらく動けない。ふくよかに薫るクロ・ド・ラ・ロシュに返す言葉が見つからない。その香りはコンサートホールで、すばらしい協奏曲が終了し、拍手喝采までのあの一瞬の静まり返る空間を思い起させる。いや少し違う。ニューイヤーコンサートでズビン・メータが指揮する「美しく青きドナウ」の出だしのホルンが静かに響きわたるあの瞬間、ついにあの名曲が演奏されるのだという期待感に似た感覚かもしれない。細胞が「音」を拾おうとしている。細胞が溢れ出る「薫り」を染みこませようとしている。そんな心のざわめきに耳を澄ませたくなる。

 口に含めば、やさしい黒系果実の甘味がシルクを纏ったような「雅」の世界。ブラックベリーをジャムにして絹で裏漉ししたようななめらかさ。奥深く端正な構造を持ち、旨み成分が全身に響き渡る。ゾクゾクッと背筋が震え、全身が赤く染まっていく。華やかな中にしっかりと落ちつきを払う大人の魅力。上流階級の貴婦人が日傘を持って東からの穏やかな風に髪を揺らしているかのような、クロード・モネにこの感動をキャンパスに描いてもらいたい欲求に駆られるほどのエキゾチックさである。

 このクロ・ド・ラ・ロッシュほど「品」を感じさせるものはない。味覚を構成する要素がベストな状態で整い、そのどれもが飛びぬけた存在であるがために限りなく球に近いバランス感覚である。美しく光り輝く手のひら大のシャボン玉が、春の風を受け止めてゆらゆら揺れているような、そんな思いもある。そのすべての要素を「品位」というベールでやさしく包み込み、モレ・サン・ドニの奥深い魅力、官能の世界にようこそである。とにかく全体の基調にはリニエ節を配しながら、他のリニエのワインとは一線も二線も画す実力。さらには他の造り手のクロ・ド・ラ・ロシュをも遠くに吹き飛ばす個性。ユベール・リニエのクロ・ド・ラ・ロシュは深く長い河の中で、孤高に輝いている。モレ・サン・ドニの偉大な実力をここに見たりである。そしてこの偉大なグラン・クリュを飲み終えた頃には、席を立ち、ブラボーを連発する自身にはっと気付きながらも、もうしばらくは鳴り止まない拍手喝采を体感していたい境地。涙で潤む瞳を拭かない自分がそこにいる。ユベール・リニエの傑作に大絶賛の拍手を送りたい。もっと強く、もっとはっきりと力をこめて拍手したくてたまらない。この史上屈指のワインに、大感動の賛美を送ろう。


以上


(註) 
ワイナート2(ヴォーヌ・ロマネ特集)のP37にてインタビューに答えるアラン・グリフィス氏が手にしているグラスと同じ形状のもの 詳細調査中




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