ドミニク・ローラン | |||||||||||||||||||||||
試飲日 2002年06月09日 | |||||||||||||||||||||||
<はじめに> 今回のクロ・ド・ラ・ロッシュは超スペシャル・テイスティング。先月蔵出されたワインで、初期熟成をローランのセラーで過ごした逸品である。そしてなにより最も注目すべきは、このワインの畑の所有者。ネゴシアンであるドミニク・ローランは、俄か信じがたいことだが、かのユベール・リニエから樽を購入し、自らのセラーでエルバージュ(熟成)させたという。ユベール・リニエといえば、クロ・ド・ラ・ロッシュの筆頭格の名手。何故そんなワインを試飲できるのか、リニエのそれとはどう違うのか、いろいろな思いがうれしく錯綜する中でいよいよテイスティングは始まった。余談ながら今回の壜は、かのロマネ・コンティのそれよりも分厚く、ボトルの底も深く押し上げられている。ローランは何を案じているのだろうか。特別に作られた壜を眺めながら、「対抗意識」の思いが・・・。 <クロ・ド・ラ・ロッシュ 1998> 冷房の効いた部屋で抜栓して40分待ってからロブマイヤーグラス(通称ミュジニ No.3)へ。液温21.5℃。熱い陽気のせいか冷たくもなく、温くもない良い温度だ。深みのあるルビー色。グラスから飛び込んでくるのは、ポートワインにも似た甘い果実香。口に含めば、ローラン節を思わせるきついアルコール感が頬を引き締める。まさに赤ワインとポートワインの中間のような微妙な味わい。時間が経つと、アルコール感が普通に戻り、花や黒い果実、そしてミルクが豊かに香る。そして万人受けするであろう甘味としっぽりしたタンニンのバランスが、飲み応えのある一杯に移り行く。ただグラスが大きく、間口が広がっているせいか若干、酸がたち酸味を感じる味わいになりがちだ。ちょっとグラスが違うかなと思わないでもない。 そこで同じくロブマイヤーの通称ヴォーヌ・ロマネグラスNo.2に入れてみる。おっとこちらは土っぽいニュアンスが前面に出ていて、少し焦がした果実の濃縮感が背筋をゾクゾクさせる。より深く、より深く。クロ・ド・ラ・ロシュの奥深い魅力に心奪われ、圧倒的なボリューム感に「時間よ止まれ」状態に陥ったりする。そんな味がグラスの中にしっかり存在する。酸味に優先するうまみ成分の塊も手に取るように分かり、余韻もすばらしく長い。後半はぐいぐい怒涛のように押し寄せるうまみ成分が、飲み手を圧倒し、偉大なクロ・ド・ラ・ロシュに出会えた悦びに歓喜の声をあげさせる。すばらしい。名作である。 思うにこのワインは、もっと時間をかけるべきだろう。理想的にはあと数年熟成させてから飲むべきだろう。我慢できずに今飲むなら、抜栓してから2時間以上待つか。いずれにしても時間が欲しい。もちろん出会った時が飲み頃を信条としている者に数年は待てない。2時間も待てないならば、デカンタしても良いかもしれない。しかし、本当は20年待つくらいの余裕が欲しい。そういう人をターゲットに造られたワインなのかもしれないが、もう飲んでしまった。 さて、葡萄栽培からアルコール発酵までを行ったユベール・リニエとの比較について。華やかで、重くないタッチはリニエ節を想像させる。偉大なリニエのクロ・ド・ラ・ロシュがドミニク・ローランの新樽200%技法を経てよりアルコール感が増した味わいに変貌している。実力者同士の夢の競演は、それぞれの味わいを保ちながら、独自の美を追求しているのかもしれない。飲み始めはローランのこれでもか攻撃を全身で受け止め、後半はリニエの華やかで優雅なひとときに身を任せる。一挙両得。そんな味わいだ。 しかし個人的には、ユベール・リニエ100%の方が好きだったりする。 ビンテージは違うが1997はこんな味わいであり、あの味は恐らく一生忘れない。 ちなみにリニエの2000年もすばらしい逸品である。2001年も同じ予感がする。 以上 |