シャトー・メルシャン | |||||||||||||||||||||||||
試飲日 2002年12月03日 | |||||||||||||||||||||||||
<日本の匠シリーズ 第二弾>
今回のワインはスペシャル企画です。日本で始めて世界的なワインコンクールでメダルを受賞した記念すべきワインで、38年の熟成を某所で過ごした逸品。おそらくは某所以外での試飲は不可能だが、日本の匠に敬意を表し、このレポートで紹介したい。 世界一のワイン造りを目指しつつも、その採算性の悪さから市場に出回ることは少なかったようで、このワインを欧米のワインコメンテーターに渡るほどの量を造り続けていたならば、日本がボルドーに引けを取らない世界筆頭のワイン産地になり得たかもしれない悲劇のワインでもある。日本人は工業製品だけでなく、ワインの世界でも世界を取れたはずの、幻とも言えるワインである。 <カベルネソービニョン 1964> 抜栓後デカンタをして蓋をし、待つこと25分。液温18℃。静かにINAOグラスへ。薄いガーネットがグラス全体に行き渡り、いわゆるレンガ色の典型だ。熟成香がやさしく香り、紅茶やリキュールが品よく混ざり合う。例えは悪いが、古い醤油樽から醤油を抜いて、水を入れて少しシェイクしてからグラスに注いだらこんな香りが醸しだされるかも知れないと思いたくなる古酒独特の香り。それはちょうど熟成したピノ・ノワールのような雰囲気があり、これがカベルネソービニョンだと念を押されても俄か信じがたかったりする。 口に含めば、優しい辛口の味わい。しかしただ優しいだけではなく、きっぱりとしたワインとしての構造を確実に伝えてくる味わいだ。口に含んでいる間から唾が溜まりだし、うまみ成分の豊かさに身をよじりたくなる。ラストには甘味にも似た不思議な感覚が口元を覆いつくし、余韻もすこぶる長い。グラスに注いでから時間がたっても一向に後退しない味わいは、脅威すら感じる。すばらしい。これは出会えるはずのない味わいかもしれない。かつて40年近くも前に、世界を目指した男たちの腰をかがめながらの畑仕事の風景が目に浮かんだりもする。やさしさ。うまみ。余韻。そんな言葉とその味わいが私の体を包み込んでいる。30余年の眠りからようやく目覚めた味わい。うまい、というより感激である。まさにNHKの「プロジェクトX」よろしく中島みゆきの「ヘッドライト・テールライト」が耳の奥に流れている。
日本の匠シリーズ 次回は1975年のサントネージュ 甲州 以上 |