ベルナール・デュガ・ピィ
試飲日 2003年6月27日
場 所    パリ14区某所
照 明 白熱灯
種 類 フランス ブルゴーニュ産AOCワイン
生産者 Bernard DUGAT-Py (Gevrey-Chambertin)
Vintage 2001
テーマ マジ
ワイン MAZIS-CHAMBERTIN Grand cru
 
<マジ・シャンベルタン>
 抜栓後少し待って、ワインクーラーにて冷やしつつINAOグラスへ。美しいルビー色が濃くも艶やかに、ここに存在している。エッジにムラサキ感はないものの、かなりの濃縮された色合いである。香りは若干閉じぎみで、カシスなどの黒系果実を中心にスパイスや甘草がしっとりと香っている。口に含めば、クラシックな味わいの代表格。媚びない甘み成分は、一瞬これがグラン・クリュなのかと疑いたくなるほどに淡白で、妙なこじんまり感がある。それでもビロードのような滑らかなタンニンと絶妙のバランスの酸味がこのワインのポテンシャルの高さをそこはかとなくアピールし続けている。過大な期待感とは裏腹の端整で物静かな味わいが、危うい裏切られ感とともに、偉大なるシグナルを発しているのだ。私はぞくぞくするほどのエキゾチックさをもって、そのシグナルを受け留めようとした。この「人になつこうとしない味わい」は、一月前の1996の村名vvで体験済み。ここは、そう。待つべし、なのである。マジ・シャンベルタンの驚異的な存在感が、もうすぐやってくるはずなのだから、ここは待つべしなのである。

 ぐお。デュガ・ピィ本人の助言の通り、抜栓後しばらくしてから、ついにコイツはやってきた。時間とともにマジ・シャンベルタンがエキゾチックに身体を揺らしはじめてくるのだ。一般的にマジ・シャンベルタンは男性的で、本格辛口のハードボイルドな味わいにその特徴を見出しやすいが、デュガ・ピィのそれはまるで違う味わいを演出し始める。一言で言えば、かくも丸いのである。ふくよかで奥行き感があり、しっかりとした構造力は滑らかなタンニンのポテンシャルの高さを裏づけし、凝縮した黒系果実の滑らかなまでの味わいと、何とも言えない夢心地の酸味と、強いのに強さを感じさせないアルコール感が、トータルにバランスよく、かくも突出した特徴を持たない代わりに、そのすべての要素がきめ細かく、柔軟で、そして大きく存在しているのである。この味わいは、ル・シャンベルタンのみが持ちうる最高の酒質かと思いきやデュガ・ピィはこのマジ・シャンベルタンで達成してくるから凄い。極めてエレガントに、極めて奥深く、極めてまろやかでリッチな味わいなのである。うまみ成分も最高レベルにあり、余韻の長さもそこはかと知れない。クラシックゆえの媚びない甘みを持ちつつも、エキゾチックな時空を楽しませる。究極に近いうまみ成分が全身に染み渡る感覚がすばらしい。おそらくは過去最高のワインの一本に数えつつ、そのうれしさをかみ締める日々が続きそうである。

 ただし今回のマジ・シャンベルタンとの出会いは、パリ14区のアパルトマンの一室というという最高の場所で、最高の友人たちに囲まれた幸せな食卓でのそれなので、全く冷静な判断などできようもなく、憧れのデュガ・ピィの最高傑作を味わうにつれ、(しかもデュガ・ピィと一緒に畑に出た、まさにその日の夜だ)、酔いも廻るというものだ。至福の時の中にしばし身体をゆだねてしまったからには、このレポートは判官びいきの要素は否定しようもないが、かくも最高の味わいは、この場を借りて記録にとどめたかったりもする。

 そして次回の出会いのときは、冷静な判断の下、このワインの実力を再確認したかったりもする。飲み方は本人に助言をいただいており、それを大いに参考にしつつ、今回の経験を踏まえ、はじめからおいしい状態で飲みはじめよう。


以上



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