似ているワイン 2

 <コート・ド・ボーヌ・ヴィラージュとブルゴーニュ・オート・コート・ド・ボーヌ>
Côte de Beaune-Villages vs Bourgogne Hautes Côte de Beaune

 この似て非なるワインについて、検証する。両者は共にフランスのAOC(原産地統制呼称法)適用ワインである。最大の違いは、その格付にある。前者が村名格であるのに対し、後者はブルゴーニュ地方名格ワインである。ランクが違えば価格も違うが、両者とも高額になりがちなブルゴーニュにとっては比較的庶民価格で取引されるため、価格的に顕著な差はなく、価格からは両者の違いは見極められない。ここでは両者の違いについて話を展開する。ところで両者とも長い上に、似ているのでこの章では前者を甲、後者を乙とする。両者とも赤・白両方のアペラシオンである。


<コート・ド・ボーヌ・ヴィラージュ>
 甲は、村を意味するVillagesの名が示す通り村名格のワインであり、その場所は白ワインの大銘醸地コート・ド・ボーヌ地区にある。また複数を表わすsが末尾に付くため、幾つかの村の集合体であることも判断できる。特級・一級と連なるAOCにあって、村名格はテーブルワインから聳えるワイン界の頂点グループに君臨し得る立場にある。AOC法上はモンラシェを有するACピュリニー・モンラシェ村及びコルトン・シャルルマーニュを有するACアロース・コルトン村と同格である。法的には同格であるが、このアペラシオンには特級及び一級格付ワインはない。村名格にして村名格までのワインしかないのである。そこが特級を持つ独立したアペラシオンとは違う個性であり、相対的な立場は当然下になる。

 甲の範囲は次の4村以外の16村からなる。アロース・コルトン ボーヌ ポマール ヴォルネイ。
 (Aloxe-Corton ・Beaune ・Pommard ・Volnay)

 甲については文献に統一性がみられず、確固たる事実は今後追跡する必要があるが、推定される状況をもとに展開する。世界の名酒事典(※1)によれば、2村以上のブレンドしたものと紹介されており、田辺由美のワインブック(※2)によれば、その記載はない。またパーカーのブルゴーニュ(※3)によれば区画の地図があり16村を数えることができるものの(P547)、記事は見当たらない。下図参照

 甲とコート・ド・ニュイ・ヴィラージュの違いは、それぞれの村が独立したアペラシオンを所有しているか、ということにある。ニュイのそれはフィサンだけが独立AOCを持っているのに対し、ボーヌのそれはモンテリーやサビニー・レ・ボーヌなどほとんどが独自のアペラシオンを持つのである。パーカーの地図を参照すれば、16村にはピュリニー・モンラッシェ シャサーニュ・モンラッシェ ムルソー などの白の銘醸地も含まれている。

 ここでもう一度整理しておきたい。まず対象外の4村について。アロース・コルトンは赤白特級まであるアペラシオンである。ボーヌ ポマール ヴォルネイの3村は、特級こそないが一級まである赤の有名アペラシオンであり、その特徴は世界の知るところである。この特徴ある4村を外したことで、この甲というアペラシオンが見えてくる。コート・ド・ボーヌ地区のアペラシオンの集合体という意味合いである。

 赤ワインの特級はコルトンしかなく、一般的にはアロース・コルトンのAOCとされている。実際には特級コルトンは、コルトンの丘を共有するACラドワ・セリニーとACペルナン・ペルジュレス村にもまたがるが、アロース・コルトン村に比べて知名度は圧倒的に劣る。両村を知る人は、かなりの知識を有していると思われる。特級ワインを有するものの無名の村名畑は、世界的に有名なコート・ド・ボーヌを冠するほうが、知名度が高く、その分ワインも高く売れる可能性がある。ただし特級を抱えるだけあり、知っていれば高品質低価格のワインを探し出すことができるアペラシオンでもある。

 また、ACピュリニー・モンラッシェ村は白の特級はあるが、赤ワインでは村名までしかなく、赤を造っていること自体知られていない。赤のピュリニーは有名ドメーヌが造れば興味もわいてくるが、ともすれば白でないことに苦情を言われないとも限らない。ムルソーは赤白一級までであるが、白の大銘醸地である。また赤を造るとヴォルネイを名乗る場所もあり、複雑なアペラシオンではある。そして問題なのは、ACシャサーニュ・モンラッシェ村である。ここは白の特級があり、一級まである赤の評価も高い。なぜ甲というアペラシオンに含めるのか。全く疑問である。しかし、答えは収穫制限にありそうである。

 AOC法はアペラシオンごとの収穫量の上限を設けている。品質維持のための条項であるが、豊作だった場合この制限を越える可能性がある。一級の枠を超えたら村名格に下げ、村名の枠を超えたら、ACブルゴーニュまで下げなければならない。さらにグランオルディナーレに下げるということもあり得るし、ガメイ種とブレンドしてブルゴーニュ・パストゥグランとしてリリースせざるを得ないかもしれない。もっと越えればテーブルワインになってしまう。ACブルゴーニュ・ロゼを造るという技もある。この技はシャンボール・ミュジニのドメーヌ・G・ルーミエも行っていたりする。

 しかし甲というアペラシオンがあれば、村名格のまま品質と価格を維持できる。ここで名酒事典の2村以上のブレンドという記事が重みを増す。隣村のサントネやサントーバンのワインとブレンドすれば、村名格ワインを維持できるからだ。名酒事典にはコート・ド・ニュイ・ビラージュの場合については、ブレンドの必要性は謳っていない。この数量制限が、法上の規制であると同時にそれぞれについて逃げ道も用意されているのではないだろか。その代表例が、コート・ド・ボーヌ・ヴィラージュ(甲)であると思う次第である。


<甲の特徴>
 赤ワインの場合は、甲に含まれない4アペラシオンについては独特の個性があるが、シャサーニュ・モンラシェなど一部を除いて主だった特徴はない。比較的やさしい味わいのタイプの産地である。そのため仮にブラインドテイスティングした場合はコート・ド・ボーヌの上記以外の村としか答えづらかったりするのが現状である。ただし極上の造り手のそれは、造り手の個性が反映し推測は可能であると思われる。

 白ワインの場合もまた、特筆すべき個性はない。極上白ワインはこのアペラシオンを名乗らず、もっと偉大な単独のアペラシオンを名乗るからである。モンラシェを他村とブレンドしてリリースするとは思えない。また仮にモンラシェを造る規模の小さい造り手が甲をリリースする場合、その可能性は否定できなくもない。値段が高ければその可能性は増す。この場合は、躊躇なく購入するのが良いと思われる。葡萄品種はシャルドネであり、畑はコート・ドールである。造り手さえ間違わなければ外すことは少ないだろう。


<ブルゴーニュ オート・コート・ド・ボーヌ>
 次に乙について検証する。乙とはブルゴーニュ・オート・コート・ド・ボーヌを指す。乙の場所は白の大銘醸地コート・ド・ボーヌ地区にはない。オート・コート・ド・ボーヌ地区にある。コート・ド・ボーヌ地区の西側に広がる一帯のアペラシオンであり、AOC法上はブルゴーニュ地方名ワインである。ただし場所が指定されていることから、ACブルゴーニュとは区別され、地方名ワインの場所指定という位置付けになる。


<乙の場所>
 下図のように、甲を上中下と三方向から挟みつつ、西側に広がっている。コートドニュイ・ビラージュから南、コルトンの丘の北側に一塊、ボーヌの横に一塊、さらにモンラッシェの西側に広がる一帯がある。乙はブルゴーニュ地方名ランクの場所指定ワインである。当然村名格よりはランクが下がる。つまり甲よりもランクは下なのである。そして山向こうのため、著名な造り手の本拠地からは若干の距離がある。車が発達している今日においては、その距離はさほど問題にはならないが、それ以前の時代ならば全く違う畑ということになる。


<乙の特徴>
 ブルゴーニュ地方名赤ワインは、ピノ・ノワール種から造られる。乙がその地方名場所指定ワインであるため、当然葡萄はピノ・ノワールである。またシャブリからボジョレーまで、狭いようで広いブルゴーニュはその範囲内であれば同じ名前でリリースされる。地区毎に味わいを変えるピノ・ノワールは、その場所が特定できないと味のイメージが持てない。けだし、コート・ドール地区とマコネ地区・ボジョレー地区では味わいが根本的に違うことによる。その点、乙は場所が指定されており、かつコート・ド・ボーヌに程近いことから、味わいにそれなりのものを期待できる。ただし村名格ワインもないという事実は重要で、過剰な期待は大いに裏切られるところである。確かにいいワインは探しにくい。この地区が高地にあるためであり、まさにコートドールの陰に隠れているためでもある。しかしここにも銘醸はある。銘醸を探すポイントはある。それは何か。それは内緒である。一緒にコーヒーを飲みながら語り合いたいところである。


<まとめ>
 相対的に甲のほうが乙よりも記事のボリュームがある。それがまさに両者の違いである。
 今回はニュイバージョンのパクリでまとめてみました。


略図 


以上

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