「日本のワイン」  2003/03/18

 最近、本屋さんに行くとちょっとしたことに気がつく。ワイン関係の売り場スペースが極端に小さくなっているのだ。地元の駅ビルの某店では、ワイン本は右手で全部つかめる程度しかなく、こじんまりした本屋では、一冊も置いていない店舗もあったりする。都内の有名店ですら、縮小傾向は否めず、ひところのワインブームは完全に去ったと嘆かずにはいられなかったりする。一方、ワイン雑誌も各種出版されてはいるが、各誌のレベルのばらつきも大きく、一部を除き、読むに耐えない雑誌から、広告塔の意味合いが強いものもあり、立ち読みですますケースも増えている。そして、なんとしてでも自分の本棚に納めたいという書籍はめっぽう少なくなった。

 そんなある日、某所で「日本のワイン」山本博著 早川書房を見つけた。氏は「ワインの女王」「ワインの王様」(ともに同じく早川書房)など著名な本をいくつも出版し、ワイン関係の第一人者のひとりである。私は、当サイトのWINE DRINKING REPORTでも紹介しているように、日本の古酒をかなり飲む機会に恵まれていて、日本のワインは非常に興味があるテーマだった。私自身も日本の大手ワイナリーの醸造担当者とコンタクトをとっており、「先を越された」という感もあるにはあるが、思わず手にとってみたりした。

 正直な話、読み始めたら止まらない。これは久しぶりに面白い本に出会ってしまった。私がコンタクトをとっている人たちも登場し、俄然興味も津々だ。氏は日本に酒税法はあっても酒造法がないことを嘆き(ワインの品質向上のための法律はなく、ワインを税金の対象としか扱われていないことを嘆いている。まったく同感である)、日本のワインの歴史や問題点、各地のワインメーカーの紹介などを丁寧にしている構成は、絶賛に値する内容だろう。

 あっという間に読破し、わたしの本棚にすぽっと収まった本を読み返している。しかし、どうしても指摘しなければならない箇所があった。それは、日本のワインの位置づけの項にある。氏はワインを4つのカテゴリーに分類している。「サウンド・ワイン」「グッド・ワイン」「ビッグ・ワイン」「グレート・ワイン」の4パターンであり、この分類方法は氏の独自のものだろう。

 「サウンド・ワイン」とは、日常用並酒と位置づけ、小売価格で1000円以内のもの。「グッド・ワイン」とは、日常の楽しい食事の友とし、小売価格で1000円台から2000円くらいのもの。「ビッグ・ワイン」は高級ワインを指し、そして、「グレート・ワイン」を最高級の芸術品レベルとしている。そして氏は日本のワインは、「グレート・ワイン」に該当するワインは、まだまだないと指摘している。「まだ」がふたつもある。

 この氏の指摘には、納得がいかないというよりも、氏の過小評価が残念でならなかったりする。

 なぜならば、日本には1975年甲州 シャトー・メルシャンがあるからだ。日本を代表するぶどう品種「甲州」100%にして、ブルゴーニュの特級ワインと比較しても、なんら見劣りするところのないワイン。このワインの存在を知らずして、否この感動的な味わいを知らずして、日本に氏の言うところの「グレート・ワイン」はないと断言するところに、悲しみを禁じえず、ぜひとも氏に飲んでもらいたかったりする。

 いずれにしても、一部納得できない部分はあるものの、この本は非常に面白い。海外で他の国の人たちとワインの話をするときに、日本人ならば当然知らなければならない日本のワインについての情報が満載で、あらためてワインの奥深さと魅力に接することが出来るからだ。日本のワイナリーの苦労話に涙し、ワインが農産物であることを再認識させてくれる。先輩たちの苦労話を知れば知るほど、日本のワイン行政の不備が目に付き、不甲斐なさも禁じえなかったりする。

 ともかく、この本は、日本のワインを再認識させつつ、日本のワインに俄然興味がわく一冊だろう。
 ちょっとお奨めである。


おしまい



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