数値化出来ないワインのおいしさ  2003/09/27

 私はワインに点数をつけず、ブラインドテースティングもしない主義である。なぜ点数をつけないのかは、別コラムを読んでいただく事にして、ここではある日のワインについて記してみたい。

 そのワインは銀座ロオジェでのワインセミナー特別編でサービスされたサン・ベランというブルゴーニュ地方マコネ地区最南端の白ワインだった。シャルドネから造られるサン・ベランはボジョレーとの境界線に接し、この地にガメ種を植えると、サンタムールというボジョレーワインが名乗れる場所である。このサン・ベランというワインは、ワインを点数評価する本では、決して100点満点を取ることがないワイン産地であり、比較的デイリーなワインとして日本全国の酒屋さんで見かけることが出来るワインだ。

 ロオジェで頂いたサン・ベランは、最近注目を浴びつつあるオリビエ・メルランが造る1999年ものだった。味わいは、クリーミーなアロマをベースに、サン・ベランらしいリンゴのニュアンスに、柑橘やバター香が混ざりこみ、このクラスをしてとても複雑な香りが印象的。味わいも香りと共通するクリーミーさがよくマッチし、パセリのクリームソースとの相性は抜群であった。しかしそれでもサン・ベランゆえに奥深さに物足りなさを感じつつ、苦味成分も前面に出やすく、その苦味がグリーンなイメージに逆にあったりした。そして驚くほどに余韻は長く、いつまでもクリーミーな味わいに、ほっと頬を赤らめるのだった。

 このワインを点数で表すならば、構造的な問題から100点は決して取れないだろう。しかし、天才料理人ジャック・ボリーが造る繊細な料理と合わせ、ロオジェという最高の空間と、美人ソムリエール(名前聞かずに大後悔かも・・・)の手際のいいサービスと、選び抜かれたグラスと、冷たさを感じる適温と、そしてなにより「食」に対する造詣が深い方々と一緒にこのワインを味わうとき、このワインからある種の衝撃にも似た感動を受け留め、点数(は、つけてはないが・・・)を超えたワインのおいしさに気付かされる。「おいしい」である。正直、ここまで「うまい」と唸らせるサン・ベランはなかなかないが、こうして出会ってしまったのも紛れもなく事実だ。

 ワインは、もっとおいしく飲める。そのワインの特徴を知り、いかにおいしく飲もうか、飲んでもらいたいかを考え、実践すると、そこに点数を超えたサプライズと感動が表れる。これぞワインの魅力である。このワインを造った人の苦労話や哲学などを知ることが出来れば、さらに違った味わいも醸しでてくることだろう。

 ワインは大地の恵み。そして人が造るお酒である。造った人の喜びと運んだ人の苦労など、この一本のワインに携った人々の顔が浮かんでくると、ワインはますますおいしくなる。点数はワイン選びの目安にはなるが、点数は心に衝撃は走らせない。ワインは飲み物、おいしく飲むに限るのだ。ワインはもっとおいしく飲める。そんなことを感じつつ、今宵もブルゴーニュ魂なのである。


おしまい



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