ジャック・セロスこそ、ロブマイヤー  にしかたゆうじ 2009/10/01


 「最も好きなシャンパーニュは何ですか」

 この質問に、私はもう何年もこんな答えを用意しています。

 「ジャック・セロス」 

 そして、私は、ジャック・セロスこそロブマイヤー・グラスできちんと飲まれるべきだと信じています。確かに、セロスのシャンパンは、どんな器に入れても、その素晴らしさを体感できますが、ロブマイヤーの、しかも、それぞれのバージョンに合わせて選び抜いたグラスで持って味わうことこそ、ジャック・セロスの本味を味わうことと信じているからです。先月は、縁あって、神楽坂の三ツ星日本料理「石かわ」さんと、京都の日本料理の代名詞的存在の「京都吉兆嵐山本店」さんと、広尾・天現寺横のフレンチレストラン「レヴェランス」さんで、立て続けにジャック・セロスを開栓する会を開催し、その信念を形に託して、ご案内させていだたきました。

 それぞれのレストランの素晴らしさは、周知のことということで、ここでは触れずに、セロスの飲み方についてのみスポットを当てて、その供し方について、ちょこっと記してみたいと思います。

左かチューリップB チューリップA グラスV ブルゴーニュ グラスV
資料提供 = ワインバー Muséeさん

 ジャック・セロスは、ビオディナミ農法を実践し、ミネラルを重視するシャンパン造りで世界的な評価を得て、そのポテンシャルの高さと表現力の素晴らしさは、大手シャンパンハウスのフラッグシップシャンパンでさえ、大きく霞むほどです。その極めて高いレベルのシャンパンを、エレガンスに味わっていただきたい。その一点において、私は、ブルゴーニュ魂ハッピー・ワイン・セミナーにおいて、ロブマイヤーを使用しています。また、セロス自身が提唱する飲み方・・・すなわち泡ワインとしてではなく、白ワインとして愉しむを実践する方法としてもロブマイヤーは最適だと信じています。

 ロブマイヤーで楽しむジッャク・セロス・・・
 その先にあるものは、いつも、心震える官能と、身が締め付けられるほどの感動です。(自分調べ)

 ここではセロスの7種類のキュべ(=バージョン=種類)のブルゴーニュ魂的な楽しみ方について、個々に探ってみたいと思います。ただし、この飲み方は日本だからこそできる飲み方で、フランスでは、セロスは手に入ってもロブマイヤーは入手困難で、ウィーンでは、ロブマイヤーは手に入れることはできても、セロスは絶望的かと思われ、実際にセロス自身もロブマイヤーでは試飲をしていないと思われますが、ここは日本ということで、両者が簡単に手に入る幸運を、全面的に活用したいと思うのでした。



 コントラストの楽しみ方

 ピノ・ノワール100%のブランドノワール「コントラスト」は、貴重ゆえに、最も高い値段で取引されていますが、ロブマイヤーを介して楽しむならば、セロス・ナンバーワンのキュベと賞賛せざるをえません。セロス自身は、モンラッシェと並ぶシャルドネの大成功地コート・デ・ブラン地区アヴィーズ村の住人にして、彼の代表作としてならシャルドネを第一位に挙げるべきではありますが、ご参加いただいた方の多くは、このコントラストを筆頭に挙げられ、それは、ピノ・ノワールの優位性に鑑みて、やむを得ないことかもしれません。DRCのモンラッシェがロマネコンティより高値で取引されることはなく、アンリ・ジャイエ(故人)やディディエ・ダグノー(故人)のピノ・ノワールの切なさを知るものにしては、シャルドネの限界を知ったりもしますが、ここではシャルドネとピノ・ノワールの優劣は端に置いといて、純粋にコントラストを楽しむ方法を見出したいと思います。

 グラスVで、時間をかけてゆっくりと飲む。

 アンリ・ジャイエもDRCの各ワインも、グラスVとの相性は抜群で、ピノ・・ノワールの官能的な香を品よく閉じ込め、味わいに重さを与えてくれるこのグラス形状が、鉛を含まない素材の優位性と、シャープにして口元がエレガンスに開く構造をして、その素晴らしさを100%表現しうると信じます。このグラスに注げば、ワイングラスを回す必要性など全くなく、しいて言えば、二酸化炭素を早目に放出して、玉葱の外側の皮をむいて、中身の柔らかさを楽しむが如く、軽くスワリングすることもあり得ますが、セロス自身が裏ラベルで推奨するように、事前にデカンタージュをするか、2時間前に開栓しておけば済むだけのこと。「グラスは回さない派」としては、注がれてからゆったりとした時の流れを、自然のままに過ごすことに第一義を見出し、ようやく泡が無くなってからの本味は、ピノ・ノワールのそこはかとない表現を楽しむことができてしまうのです。それはオリエンタリックなスパイシーさに秘められた官能と表現したくなるほど、もっと平たい言葉を連ねれば、全身をキュッと締め付けられるような感覚を覚えるのです。

 コントラストを、ブルゴーニュ(上記の写真の右から二番目)に注ぐ手もありますが、開放型故に酸化のペースも速く、それは香を華やかに楽しむメリットに優先するきらいがあり、石灰質成分の少ない粘土質に植わるピノ・ノワールには、幾分の違和感を感じるところです。ピノ・ノワールは、シャンボールミュジニを除いて、閉じ気味に楽しみたい。そう思います。チューリップ各種とグラスVでは、残念ながら役者が違うと言わざるをえなかったりもします。



 シュブスタンスの楽しみ方

 セロスの代名詞的存在。1986年からの毎年のシャルドネがブレンドされるというソレラシステムを採用し、ビンテージの個性よりも、アヴィーズ村のテロワールを重視する独特の方法によって、比類なきシャンパーニュが作られています。スパークリング・コルトン・シャルルマーニュの異名も持ち、秋の気配を感じさせるマロン・フレーバーに独特の酸化ニュアンスが加味された不思議なシャンパーニュ。このシュブスタンスこそは、普通のシャンパンの飲み方をしては、そのポテンシャルを楽しむことができないもので、私は、ロブマイヤーのブルゴーニュが最適と信じています。

 デカンタージュして、ブルゴーニュで楽しむ。

 ソレラシステムによる酸化傾向は、いわゆるカビ臭さにも共通する不快感を持つことが多く、液体にまとわりついたその風味を消し去ることを第一の目的として、デカンタージュをするか、グラスから直接注ぐときは、ある程度の高さを確保してのジョボジョボ注ぎがお勧めです。(その際、雫がボウルの内壁に飛び散るので、くるりと手首を返して、内壁全体にワインが接触するように回転させ、その雫は取り除きたいところです・・・すべては美しくあるために・・・)。この開放型のブルゴーニュグラスに注ぐと、酸化ニュアンスを時間の経過に任せるだけで、取り除くことができるから不思議です。これをグラスVに注いでしまうと、香がボウル内に充満する形状にして、一向に酸化臭が消えずに、ピュアなシャルドネになかなか到達できないのです。

 ブルゴーニュに注いだシュブスタンスは、時間とともにマロンフレーバーが、その空間を支配し、激しく高いポテンシャルに、心が躍動していることに気づきます。この時グラスをぐるんぐるん回すのはご法度で、ようようにして折り重なった香のミルフィーユ状態を、がらんと飛ばしてしまうことは、狂おしくさみしい限りなのです。

 ところで、シュブスタンスのポテンシャルの高さを簡単に証明する方法があります。おいしい果物と一緒に、シャンパンを飲むのです。世に出回っている90%以上のシャンパンは、果物の酸と甘みに対抗できず、シャパシャバになってしまいますが、ことセロスに関しては、そんな心配は御無用で、逆にシャンパンの凄味を果実を通して感じることができ、その圧倒的な強さは、苺の甘みを凌駕してくれるのです。プリティ・ウーマンを気取るなら、ジャック・セロスで・・・お勧めです。

 このシュブスタンスをして、最高のセロスと言わしめるエッセンスを感じることができますが、コントラストとの比較においては、常にその部は悪くなてしまうのは、なぜなのでしょうか。それは、シュブスタンスにおいては、ボトルバリエーションも大きく、デゴルジュマンの違いによる差も激しいことから、最高のシュブスタンスに出会えた喜びと、そうでなかった時の落胆のギャップも大きいのも一つの要因に考えられますが、私はシャルドネとピノノワールの限界点の違いかと思ったりしつつ、この話は長くなるのでまた別の機会に・・・。いずれにしてもシュブスタンスの本味をぜひブルゴーニュグラスで。決してグラスは回さないでね・・・。

 ちなみにチューリップBに入れると、その壮大なスケール感が表現できずに、ただのカビ臭いシャンパンで終わることも多く、ストレスがたまります。シュブスタンスっておいしいですかという質問を多く受けますが、おおむねその時のグラスが・・・なのです。一般的なフルート型にいれてしまうと、精神的になんでそのグラスに入れてしまうのという不快感がすべてに優先してしまい、それだけは勘弁してほしいと願わずには居られません。

 一方で大柄なチューリップA(写真の左から二番目)に入れるのも、実はとても楽しい作業で、そのスケールに見合った大きさと形状により、特に色合いの美しさを、120%引き出すことができたりします。たとえば、吉兆さんの会の時のシュブスタンスは、Aにて提供させていただきましたが、狭まるグラスの形状ゆえに、強調された琥珀に迫る黄金色が、和の穏やかな間接的な光に映えて、それはもう美しいのでした。ただ、このグラスをしても、香のポテンシャルを最大限に引き出せか、疑問符も点灯し、ブルゴーニュに移し替えたいと願う参加者も複数いらっしゃいました。その時はグラスに余裕がなく、すんませんです。

 いずれにしても、シュブスタンスを飲んでいる時が一番セロスを感じます。



 ミレジメの楽しみ方

 最近手に入るセロスのミレジメは、1998ですが、カンテサンスで開けた1997のマグナムはもちろんのこと、某回転寿司でお楽しみいただいた1996も素晴らしいシャンパーニュでした。ミレジメ=ビンテージものを開栓する楽しみは、ひとえにシュブスタンスとの哲学の違いを楽しむところにあります。単一年度のシャルドネだけを醸すという作業に、その年の風景を重ね、若いうちに愉しむ場合は、シュブスタンスの琥珀系金色に比較して、緑が勝った美しいゴールドが、目に鮮やかで、熟成させてから楽しみたい欲望に駆られつつも、若いうちに愉しむのも、個人的には、一興だったりします。

 ブルゴーニュで楽しむ。

 やはりシャルドネはブルゴーニュグラスとの相性が抜群です。チューリップAで泡の本質を楽しむ手もありますが、それよりもモンラッシェとの対比のほうが心に抵抗感も少なく、泡をあえて飛ばすブルゴーニュグラスに、シャルドネの本味を知るのです。それはモンラッシェをチューリップAに注がないのと同じ理由です。セロス特有の酸化ニュアンスが消えてから、燻したヘーゼルナッツ香が芳しく、上質なバター香と蜂蜜香が現れては、カスタードクリーム、そしてカカオな要素が表面に現れる頃には、飲み手の頬は緩むというものです。シャルドネの美しさを表現したい。その年の個性とともに・・・。素晴らしいひと時です。



 ロゼの楽しみ方

 かつては、セロスの自社畑のシャルドネに、アンボネイ村の友人エグリ・ウリエのピノ・ノワールをブレンドして造られていましたが、最近は自社畑のピノ・ノワール(アイ村とアンボネイ村)のピノ・ノワールにて醸造されていると聞き及びます。ボトル内に澱が舞っていることから推測するに、アッサンブラージュ方式ではなく、マセラシオン方式のような気もしますが、このあたりははまだ確認が取れていません。すみません。

 グラスVで楽しむ

 やはりピノ・ノワールがブレンドされていることから、グラスVとの相性は、抜群です。時間とともに、山のお出汁の風合いを見せつける頃には、日本料理との組み合わせも奥深く、グラスVで香を充満させたい欲望に駆られます。このロゼも泡が無くなってから本領を発揮してくるので、ロゼ色の木目の細かい泡立ちを楽しみたいならば、他の作り手のロゼを選んだほうが賢明かと思います。泡の収まったセロスのロゼは、薄い色合いにしてピノ・ノワールの官能を感じさせてくれます。あわよくば、ピノノワールだけで醸してもらいたいと思いつつ、シャルドネの骨格感が、この風情を引き立てているかもしれず、これもとてもいい感じです。ブルゴーニュグラスだと、香のぼやけ具合が、個人的には好みと違い、ピノ・ノワール=グラスVの方程式通りに愉しみたいところです。なお、このボトルのみ、擦りガラス的な透明瓶に入っており、直射日光の影響を回避したいところで、大切に保管したいところです。普通の瓶に入れると、このオレンジかがったロゼ色が表に出せず、痛し痒しなのだろうと推測しつつ・・・・。



 セック・エクスキーズの楽しみ方

 甘口のシャンパーニュにつき、フォアグラや果物、ブルーチーズとの相性は抜群で、カンテサンスのブーダンノワールやアキュイールのフォアグラのミルフィーユを想像するに、ただそれだけで、涎もたれるというものです。シャルドネの辛口主体が本分のセロスにして、この甘口は(セックなので本当は半辛口)、サプライズ的な要素も強く、そして、その強烈なうまみと品のある酸から、セロスナンバーワンと目されるのも頷けたりします。

 グラスVで楽しみたい Bでもいい感じ

 このエクスキーズは、いろいろなグラスで楽しみたいと思いながらも、その香り立ちの豊かさを表現するには、シャルドネながら、グラスVに入れたいところです。チューリップBでも素晴らしいですが、もちうるポテンシャルを十分に発揮できないことも少なくなく、一方でチューリップAでは、量が多すぎてしまうきらいがあり、レストランでは一杯だけのワンポイントで登場させやすいことから、気持ち、少な目に注ぎたいところだったりもします。かといって、テイスティング用のグラスVでは、香の複雑さをダイジェスト的にしか表現できず、ブルゴーニュですと開放しすぎて、おさまりも悪いようで、甘みが口の両サイドから入ってくる心地の悪さも一考すべきで、やはり伝家の宝刀グラスVが、いい感じに落ち着くのです。時間をかけても経たらないポテンシャルに凄味を感じつつ、この甘いニュアンスは、心ときめき系です。

 甘いシャンパーニュの代表銘柄にして、チューリップBで供したエクスキーズと石かわさんのパパイヤとの相性の良さを、石かわさん自身が目を輝かせておどろしていた姿が印象的でした。ただ甘ったるいだけではなく、シャンパーニュらしいキリリとした酸に支えられ、女性受けするシャンパンの筆頭にあげたりもしています。もう少し安ければ・・・そこだけが激しく残念だったりもします。



 VO エクストラ・ブリュットの楽しみ方

 バージョン・オリジナルと銘打たれた辛口シャンパーニュ。高い割には、シュブスタンスほどの個性がなく、埋没しがちなキュベですが、大地のミネラルをナチュラルに感じやすいシャンパンにして、シャルドネの本味を楽しめます。


 チューリップAまたはBがいい。

 他の作り手のシャンパンと比較試飲することも容易に想像され、ここはシャンパンとして定番のチューリップに入れたいところです。AかBを選ぶポイントは、何倍取りするかが最大のキーワード。6杯取り以下なら間違いなくAに注ぐべきですが、8-10名で分ける場合は、Bでないと分量的に厳しくなり、ようは人数に応じて選びたいところです。そして、このシャンパンをじっくりと検証したいのならグラスVと言う手もあります。ふっくらとシャルドネの香ばしさを時間をかけて楽しむときに適しており、ブルゴーニュだと、開きすぎるきらいがあり、そこまでのポテンシャルがあるのかという疑問も忍びつつ、どのグラスにするかを選びながらワイワイ楽しむのも一興かと思われます。ただ、数が少なく、そして結構高い価格設定は、どうせ買うならシュブスタンス・・・と言いやすいのが、痛し痒しなキュベかもしれません。



 イニシャル ブリュットの楽しみ方

 セロスの定番にして、レストランでもオン・リストされやすいキュベ。昔は1万円もあれば、たくさんお釣りが戻ってきましたが、一時期は、ええええっと言うほどの金額に跳ね上がり、最近こそ、いい感じに落ち着いてきてはいますが、それでも1万円台前半の後半(笑)で推移しており、レストランで頼めばサービス料などを含めると、某店など安いところを探してみても、2万円以上になってしまうところが、うるおしく痛恨です。


 チューリップAまたはBがいい。

 他の作り手のシャンパンと比較試飲することも容易に想像され、ここはシャンパンとして定番のチューリップに入れたいところです。ブリュットをしてセロスの本味を知ることも多く、その酸化ニュアンスから芳醇ニュアンスに移り変わる様を体感するには、フルートグラスなど言語道断で、香をためやすいチューリップ型にて、時間をかけて楽しみたいところです。ブルゴーニュやグラスさんでも面白いですが、比較的デゴルジュマンが浅いバージョンでですと、複雑味のレベルに到達していないケースもあり、いわゆる味わいがバラける可能性もあります。しかし、グラスVで花開く可能性も秘めていることから、グラス選びは好みを分けそうな気配かもしれません。どのグラスがいい感じか。それを楽しむ作業に重きを置きつつ、フルートだけは避けてもらいたいと思うこの頃です。


手前の列の左からブリュット・イニシャル VO シュブスタンス 1998 ロゼ
奥の列の左端が コントラストで、さらにその奥にあるのがエキスキーズ

東京・広尾のレヴェランスさんの会にて


 こうして、現存する7種類のジャック・セロスのシャンパーニュの楽しみ方を記してみましたが、あくまでも私のセミナー時の開け方にして、これ以外の方法もありそうではありますが、数年にわたり検証した現時点において、これがベストと信じつつ、それはもうロブマイヤーでお試しいただくより方法がなく、言葉の限界も感じるところです。今回はあえて記していない温度管理(保管温度ではなく、そもそものサービス温度と室温との差による温度上昇度合い)を考慮して(一応、温度については秘密にしておきます(爆))、ジャック・セロスを飲むときの参考にしていただければ幸いです。

 なお、ロブマイヤー・グラスは、ジャック・セロスの各シャンパン(ブリュット除く)よりは安いです(爆)。
 そして、優れて偶然ですが、好きが高じて、正規に扱ってます(笑)


おしまい



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