にっぽんハッピーワイン


金井一郎の世界観 2006/12/13

2006年12月10日、平塚のハッピー・キュイジーヌ ブラッスリーHxM(アッシュエム)さんと姉妹店のmoto Rosso(モト・ロッソ)さんと共同で、山梨県山梨市に本拠地を置く、金井醸造場の当主 金井一郎氏を両店にお招きして、ワインセミナーとメーカーズディナーを開催した。

 式次第は、こちらを参照してください。

 金井一郎(以下敬称略)といえば、日本でビオディナミ農法を実践する造り手として知られ、その名声は、日本国内もさることながら、フランスにおい轟いており、フランスのニコラ・ジョリーやマルク・アンジェリも畑の視察に訪れるほどである。また昨年はドメーヌ・ルロワの当主マダム・ルロワも彼のワインを試飲しており、山梨に金井一郎ありと、平塚界隈ではとても有名になっている。

 金井一郎は、山梨市万力(まんりき)にある自社畑では、ビオディナミ農法を採用している。そこで試験農場的な意味合いも込めて、目指すべき葡萄栽培の方針を明らかにし、周辺の契約農家さんには低農薬による葡萄栽培を依頼し、山梨の風土を葡萄の実にこめようとしている。醸造の段階でも、昔ながらのワイン造りの方法にこだわり、天然酵母での発酵による風土の表現を試み、また醸造中の亜硫酸の使用を必要最小限にとどめて、葡萄本来のうまみをワインに昇華させようとしているのだ。山梨市万力の個性にこだわったワイン造りは、富士山を越えて、飲み手の共感を呼び、12月10日を迎えるにいたった。


ワインリスト(第一部 オードブル付)

 2006 キャネイ甲州 万力山
 2005 マスカットベリーA no.12
 2006 万力メルロ
 2005 万力 カベルネ・ソービニヨン



 第一部のmoto Rossoでの会は、試飲に重きを置いて、INAOのテイスティンググラスにて、4種類のワインをテイスティングした。ワインは、この日のために用意してもらった4種類で、すでに購入も叶わないため、その日が最初で最後の出会い的な意味も強かったが、造り手本人による説明を聞きながらのテイスティングは、和気藹々とした雰囲気の中で、大いに盛り上がったのだった。なかでも、ワイナリーの在庫数の関係で、一部にしか供せなかった2005スカットベリーA no.3についての喜びの声が強く、交配品種のハンデを取り払い、日本発の赤ワインとしての美しさを、共有することができた。

 また2006キャネー甲州 万力山もいわゆる自然派らしい微発砲系の味わいから、時間と共に開花していくさまは、なんとも心地よく、薄い紅茶色というかなんというか、軽い醸しによる不思議な色合いに、初めてそれを口にする人の小ささなサプライズが印象的だった。

 ヨーロッパ系のメルロ2006と2005カベルネソービニヨンは、共に万力山に自社畑に位置し、金井醸造場の赤ワインのフラッグシップ。2006年は、金井一郎曰くの「自然を受け入れた」天候不順により、樽熟成させることなく、ヌーボー的な意味合いを込めてリリースされたもので、限定120本のお宝的ワインとなってしまったが、天然酵母による発酵と自身初となる完全亜硫酸無添加にチャレンジした逸品で、その味わいは穏やかな中に包まれた台地の恵みを感じ取ることができました。それはつまりローインパクトで、うまみの余韻を楽しむというスタイルで、ハイパーインパクトなワインとは対照的な、素朴な味わいは、しっかりとメルロの品種香を漂わせつつ、万力の斜面に降ったいつもよりも多目の雨の味を表現しているかのようでした。

 2005の万力カベルネソービニヨンは、硬くドライな味わいで、明らかに今飲まれることを拒否していそうな趣でしたが、その硬さもまたビンテージの個性と解釈すれば、至極まっとうな赤ワインの本質を感じつつ、熟成による味わいの変化を心待ちにしたいと思うのだった。



ワインリスト(第二部 フレンチのコース料理と共に)

 2006 キャネイ甲州 万力山
 2005 万力甲州 朝焼
 2004 ヴィノ・ダ・マンリキ
 2006 万力メルロ
 2005 万力 カベルネ・ソービニヨン
 2002 シャトー・キャネイ カベルネ・ソービニヨン
 1972 甲州甘口 1.8リットル



 第二部のHxMサンでの会は、メーカーズディナー形式をとりながら進行した。キャネイ万力山は、一部にも登場したが、飲み方とグラスを変えてみた。サービス直前にダブルデカンタをして、意図的にワインに残された二酸化炭素を開放し、リーデルのソービニヨン・グラスへ。クリスピーなぴちぴち感を取り除き、醸しの工程を経た甲州の面白さを提案した。心地よい酸味と、不思議なうまみに心寄せつつ、実はこのワインは、最後まで引っ張ってグラスの中で大切に育てた某氏のグラスは、クリーミーで豊かな薫りが漂っていて、それはシャルドネをそのままにしたときと同じようなニュアンスになっていたから不思議である。

 そして二部のメインは、甲州朝焼。昨年、万力甲州三部作の第二弾としてリリースされたもので、すでに市場から消えているワイン。今回の企画にあわせて秘蔵のワインを3本を特別にご提供いただく。リリース直後は賛否両論あった甲州の醸しワインは、独特の澱を取り除くためにデカンタージュをしてから、リーデル・ヴィノム・ブルゴーニュグラスへ。おだやかなうまみと、お料理に対するアプローチとしては、ポン酢の代わりになるような酸味を持ち、祖父が描いたラベルの原画を眺めながら、祖父から孫へと受け継がれた万力の風景を堪能した。

 続いて万力シャルドネは、万力シリーズ(『自家農園天然酵母による醸造』)の第一弾としてリリースされたもので、すでに蔵にも在庫はなく、静岡県内にて調達してきたもの。室温になじませた後、ダブルデカンタしてからサービス。シャルドネの品種特性を持ち、自然派らしい穏やかな口当たりと遅れてやってくるうまみが特徴的。しかし、後半(といっても会終了間近ではあるが、)はややそのパワーを失い、その役目を終えていたところに、万力シリーズ第一弾としての「位置」を意識した。(ちなみに2006年は収量が極端が落ちたため単独での醸造は断念した模様。詳細は別の機会に)

 赤ワインのトップバッターは、1部でも登場した万力メルロー。ダブルデカンタをして、お好みに合わせてリーデルのソービニヨングラスかブルゴーニュにサービス。濁り系の薄い色合いは、最近流行のメルローを知るものには、一瞬のサプライズを与えるが、メルロの品種特性を穏やかに表現する味わいは、食中酒としての役割を大いに担い、するりと飲み干すごとに、眺めの余韻に浸ることもできた。

 つづくカベルネ・ソービニヨンは、やはり硬い味わいで、硬質なミネラルが印象的だった。デカンタしてもおな、その硬さはほぐれず、前日以前の開栓での対応が必要かと思われた。そして最後の2002年カベルネソービニヨンは、金井一郎がイタリアワインにあこがれた時期に造られた逸品で、樽香の甘いニュアンスを携えながら、日本ワインにありがちな薄っぺらさは感じず、ボルドーワインと比較しても遜色のない味わいに、参加者の酔いも一瞬さめるというものだった。日本の赤ワインのレベルの高さを証明する味わいと、断言してもよさそうだ。

 そして金井一郎自らのサービスによって、金井一郎の誕生を記念して特別に造られた甘口甲州をデザート共に味わう。甘口の再発酵防止と、当時の習わしにより、亜硫酸は限界まで使用されたようだが、34年のときを経て、その甘みを開花させていた。参加者の中にも1972年生まれの方と1972年に結婚された方もいらっしゃり時空を超えた喜びに包まれたのだった。


 酔うほどに、心も和むHxMかな。
 この企画を通して、金井一郎のワインとワイン造りの情熱を共有できていれば幸いだ。


以上




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