鮨さわ田 (2003/12/17)

 
 某日。いつものメンバーと中野坂上にある「鮨さわ田」へ。今年四回目の訪問は、四度サプライズと感動に包まれ、かなり幸せなのである。

 今回のさわ田訪問は前回から二ヶ月ばかり経っていて、その間、私の鮨の情報量は膨大なものになっていた。それはそうである。毎晩寝る前に鮨や鮨職人の本を読み、小野二郎さんの握る鮨の写真を眺めていれば、必然的に鮨の知識は増してくるのだ。予約が取れないはずの名店になぜか通える奇跡に感謝しつつ、そして同じ鮨屋に年間を通して通えた喜びを噛み締めながら、今宵も鮨との出会いに感謝するのであった。

 今回の感動は、いくつもあってひとつに断定することは困難だ。トコブシよし、白身よし、赤身よし、鯖よし、コハダよし、はまぐりよし、あなごよし、車えびよし、かんぴょう巻きよし・・・。旨かった鮨を挙げようとしても、枚挙に暇がないとはこのことを言うのだろう。そんな極上のお鮨を頂きながら、今宵強いてひとつのことに集中するならば、それは魚に包丁を入れる音になる。ずばり、音である。極上の鮪や一仕事終えた鯖を丁寧に切り分けるときの音は、再現不可能にして、間近でしか聞けない音なのだ。気持ちねっとりとした感覚を耳に残しながら、魚は美しく鮨ネタに変貌する。この音を聞き逃すまいと、耳に神経を集中させていると、「この沈黙は苦手なんですよ。日常会話をしてくださいよ」とのご主人の弁が楽しくなる。この包丁の音を聞くだけでも、さわ田に行く価値はあると思う。

 そして、もうひとつあげるなら、シャリ(ごはん)である。冬場のシャリは、穏やかに旨い。夏場とは酢の利かせ方をかえていて、この季節や、鮨ネタに合わせるコンビネーションに感動しつつ、今宵は本当にごはんが旨かった。ややもすると高級居酒屋と間違われそうな、サプライズ系魚のお造りのオンパレードに目と心を奪われつつも、鮨さわ田は、やはりお鮨やサンなのである。握って何ぼの世界で、頂点を目指す心意気と技術がすばらしい。ネタにあわせてごはんの温度を気にする話や魚の脂の種類、将来目指す鮨屋についてのお話を伺いながら、(ときどきはちょっとした愚痴を聞かせてもらいながら)、磯自慢を飲みつつ、素敵な夜は更けていくのである。

 「鮨さわ田」はたった五席の小さいお鮨屋さんである。この五席を貸しきって、気の合う仲間と酒を飲みつつ、3時間の「さわ田劇場」を楽しめる喜びは、素直に感動するだけでなく、明日への活力が漲り、目標が明確になるから不思議である。そしてなによりご主人との小粋な会話を楽しみながら、この瞬間、日本で仕入れられる最高の魚を握ってもらう喜びにしばし酔いしれるのである。

 「鮨さわ田」 ここは、私たちにとって、とても素敵なお鮨屋さんである。
 
 姉妹コラム 「痛快さわ田劇場」 「極上鮨を巡る冒険」 「きららの仕事」 「博多を巡る冒険 鮨田可尾編

おしまい


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