ベルナール・デュガ・ピィの新たなる挑戦
 配信日 2003年11月27日 13h35

 
2003年11月15日午前9時にドメーヌ・ベルナール・デュガ・ピィを訪問し、ベルナール氏と奥さんのジョスリーヌ夫人より下記情報を入手した。ジョスリーヌ夫人より「あなたのホームページにアップしたら、スクープよ、スクープ !!!」との心強い助言を頂き、弊サイト「ブルゴーニュ魂」の100,000アクセスを記念して、ここに紹介しようと思う。


[ドメーヌ・ベルナール・デュガ・ピィが2003年よりコート・ド・ボーヌに進出]

 ジュブレ・シャンベルタン村に拠点を置く、ドメーヌ・ベルナール・デュガ・ピィはロマネ・コンティを所有するDRC社と同列の評価を受けるブルゴーニュを代表する赤ワインの造り手で、フラッグシップワインは、特級シャンベルタンである。所有する畑は、特級クロ・ド・ヴージョに接するヴォーヌ・ロマネの一角を除き、ジュブレ・シャンベルタン内に点在していて、シャンベルタンのナンバーワンドメーヌとして世に知られていることは弊サイトでも度々記してきた。そのベルナール・デュガ・ピィが2003年よりコート・ド・ボーヌの畑を耕作し、ワインを生産することになった。所有形態はメタヤージュ(折半小作制度)。今年8月には無事に収穫も終え、2003年11月現在はジュブレ・シャンベルタン村の醸造施設において、樽熟成の段階に入っている。その新ワインはふたつある。

 ポマール(赤)ムルソー(白)である。
 
新ワイン 種類 格付 面積 2003年樽数 備考
ポマール レ・レルヴィエール
Pommard Les Lervières
村名 0.78ha 7樽 国道74号線沿いの平地の超古木
ムルソー
Meursault
村名 0.21ha 2樽と1/4 一区画より

 ベルナール・デュガ・ピィはポマールのテロワールをエレガントを伴った強くて長期熟成タイプと考えているようで、ポマールには地元のコート・ド・ニュイには見られない特有の個性があり、かつ世界的にも有名なワイン産地であることをポマール進出の理由に挙げている。2003年の生産量は7樽=2,100本で、これはデュガ・ピィのほかのワインに比べれば、少なくはないので(ボルドーと比べてはいけない)、比較的入手もしやすいのではないだろうか。なお、レルヴィエールはボーヌ側から見てシャトー・ド・ポマールの手前にあたる平地で国道74号線に接している畑の名前。

 そしてムルソーである。ベルナール・デュガ・ピィがついに白ワインを造り始めたとの報は、昨年のDRCのブルゴーニュ・オート・コート・ド・ニュイ・ブラン生産以来の衝撃をブルゴーニュ魂に走らせている。春先に訪問したときは、白ワインについては、非常に興味があり、将来造りたい程度の話だったのに・・・。どうやら収穫までは外部に情報を漏らすことなく、極秘裏に進められていたようである。デュガ・ピィの白ワインは、ムルソーの村名畑の一区画より、僅かに2樽と1/4ほど造られている。この700本に満たない白ワインにワイン愛好家が飛びつく様は容易に想像できる。いままで白ワインを全く造ってこなかった赤ワインの天才の造る白が、ジュブレ・シャンベルタンをこよなく愛する人が最も親しみやすいムルソーであるところが親近感を覚えさせてくれる。

 2003年は、各メディア既報の通り、酷暑のビンテージであり、特異稀なるビンテージとして後世に語られる年になりそうだが、そんな年にジュブレ・シャンベルタンの勇者がコート・ド・ボーヌに進出し、新しい可能性を追求する姿に、ブルゴーニュ魂は興奮を抑えられず、2005年頃、日本市場で販売される日々を待ちわびたいこの頃だったりもする。


 そして、ふたつのワインの追加も要因に挙げられているが、手狭になったドメーヌを拡張すべく、現在ドメーヌ・ベルナール・デュガ・ピィでは新しいカーブ(熟成庫)が建設されている。ドメーヌの中庭には、巨大クレーンが陣取っていて、デュガ・ピィの新しい展開の象徴にも似て、ブルゴーニュ魂は震えるばかりである。

新カーブ建設中 工事内容を知らせる看板 マダム・ジョスリーヌ・デュガ・ピィ

 
[私見]
 さて、デュガ・ピィのポマールとムルソーについて、私見をひとつ、ふたつ。

 まずポマールについて。ポマールはボーヌの南側に位置する銘醸地で、男性的な長期熟成タイプのワインとして知られ、発音のし易さ(英語ではポマードになるようだが・・・)からイギリスやアメリカでの人気もぴか一というワイン産地である。デュガ・ピィのポマール進出は諸手を挙げて歓迎したいところではあるが、しかし、少しばかり気にかかることがある。それは、ジュブレ・シャンベルタンからの距離である。ジュブレ・シャンベルタンからポマールはコルトンの丘を挟み、かなりの距離がある。仮に(というか現実に)、ジュブレ・シャンベルタンからニュイ・サン・ジョルジュまで歩くとおおよそ3時間半かかり、ニュイ・サン・ジョルジュからブルゴーニュの商業の中心地ボーヌまでは国道74号線をひたすらに歩いて4時間はかかる。そしてボーヌからポマールまでは見た目には分からないが自転車や徒歩では実感する緩やかな上り坂の先にあり、歩いて一時間ほどかかるのだ。トータルでは8.5時間近く歩き続けなければ、ジュブレ・シャンベルタンからポマールまではたどり着けない。かりに私の歩くスピードを時速4キロメートルとするならば、34キロメートルの距離なのである。

 しかし、一般的には移動は車を使うので、34キロメートルなら、時速68キロで30分しかかからない。国道74号線はボーヌ市内を除き、信号はあまりないので、スイスイ移動が可能であり、ニュイ・サン・ジョルジュからボーヌまでは高速道路も完備しているので、「この距離は大したことないわよ」とのジョスリーヌ夫人の言葉が説得力を増してくるから、私の貧乏性的心配は杞憂に終わりそうである。
 

 さて、もうひとつの新ワイン、ムルソーはどうだろうか。その前にボーヌのワインショップでこんな会話を思い出してみよう。そのワインショップには、ジョルジュ・ルーミエとシモン・ビーズのコルトンシャルルマーニュがそれぞれ売られていて、価格はルーミエが89ユーロで、シモン・ビーズは詳細失念したが100ユーロを超えていた。日本ではルーミエの方が高値で取引されているようで、値付けの根拠についてワイン商マクヴァン氏に聞いてみた。氏曰く、「ルーミエは赤ワインの造り手で、ミュジニやボンヌマールは極上だが、白ワインのコルトン・シャルルマーニュは普通だよ。それに対して、シモンビーズは、コルトンの丘の地元でもあり、白ワインとしての評価は凄いもんだ。シモンビーズの方が高いのには、ちゃんと理由があるんだよ」。

 ドメーヌ・ベルナール・デュガ・ピィはシャンベルタンをはじめとする赤ワインの造り手で、しかもこのムルソーが白ワインとして、はじめての醸造である。初めての白ワインという期待と不安。そしてムルソーはポマールよりもさらに南側で、ちょっと歩こうとは思わない距離である(それでも一度は歩いたけれど・・・)。そして、このムルソーは特級畑こそないものの、巨匠コント・ラフォンとコシュ・デュリの二大スターが本拠地を置くブルゴーニュきっての白の銘醸地。ベルナール・デュガ・ピィのムルソーは必然的に彼らと競合し、賞賛と批評の対象になる。ブルゴーニュ魂の杞憂はポマールの比ではないのである。

 ここでDRCのモンラッシェの説明も必要だろう。コート・ド・ニュイ地区のヴォーヌ・ロマネに拠点を置くDRC社は、ロマネ・コンティをはじめウルトラ6兄弟と比喩される特級赤ワインとムルソーよりさらに南側のシャサーニュ・モンラッシェ村から特級モンラッシェを生産する世界一のドメーヌである。その実力は他者を圧倒し、強烈な存在感を有し、ワインオークションでは、DRCのワインばかりが競り落とされている。DRCのモンラッシェは時としてモンラッシェの中で最も高値で取引され、その評価はゆるぎないものである。DRCの事例により、コート・ドール内(マルサネからマランジュまで)であるならば、ワインの品質に距離は無関係であるようにも思われるかもしれない。

 しかし、DRCのモンラッシェとデュガ・ピィのムルソーは同じ土俵に乗っていない。なぜならば、DRCが優秀な人材を確保し、組織的にワイン造りを行っているのに対し、デュガ・ピィはあくまでも家族経営的なワイン生産者だからである。複数の畑で異変(病気など)が発生したとき、DRCはすぐさま対応できる体勢を整えていても、デュガ・ピィの人材は限られていて、ジュブレ・シャンベルタンとムルソーで同時に何かが発生した場合の対応が心配にならざるを得ない。この点はベルナール・デュガ・ピィ氏の万全の対応に期待を寄せるものであり、熱い視線で見守りたかったりもするが、この点がブルゴーニュ魂に不規則な振動を与えたりもしている。

 そしてもうひとつ。ワインの種類が増えたことによる「力」の分散である。ジュブレへの集中力が、ムルソーとポマールに分散されるようなら寂しい。しかし昨年来数回の訪問をから感じられる氏の理科系の視線と背後に後光のように溢れ出るオーラからは、そんなことは、それこそ杞憂中の杞憂であるように思われる。氏の一日の、一週間の活動を知るならば、そんなことを考えるのは、時間の無駄であって一消費者として、おそらく2005年に出荷されるワインを安心して待てばいいだけの話である。いやいや安心しては待っていられない。常に入荷状況をチェックしておかなければならないのだ・・・。


 いずれにしても、天才ベルナール・デュガ・ピィが自らの可能性を、ここポマールとムルソーに託し、新たなるワールドを造り上げる様を注目していたい。いったい全体どんなワインになるのか、どんな感動が待ち構えているのか、デュガ・ピィのムルソーとポマール。2003年という特異なビンテージにデビュするデュガ・ピィのムルソーとポマール。世界中のワイン批評家と愛好家と醸造家から注目を浴びるであろうデュガ・ピィの新ワインと新しいことに挑戦するベルナール・デュガ・ピィを、一消費者として、しっかりと見守りたいこのごろである。そして、そんなワインを待ちわびる日々もまた人生のメリハリなのである。


 ドメーヌ・ベルナール・デュガ・ピィ。ここに感動がある。

 そしてこのスクープを誰よりも先に、「ブルゴーニュ魂」でお伝えできることに、感無量である。

シャンベルタンの樽に手を添えるベルナール・デュガ・ピィ氏


 ドメーヌ訪問記

 畑仕事

 デュガ・ピィ考

 トピック 2004年初ビンテージ

以上
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