モエ・エ・シャンドン
試飲日 2002年09月06日
場 所    神奈川県内某所       
照 明 蛍光灯
種 類 フランス シャンパーニュ産AOCワイン   
生産者 Moët et Chandon (Epernay)     
Vintage 1985
テーマ 史上最高のシャンパーニュ
ワイン Cuvée Dom Pérignon Oenothèque
 
<ビンテージ・シャンパン キュベ・ドン・ペリニョン オノテーク>
 今回は超スペシャルテイスティングです。このドリンキング・レポートにドンペリは初登場ながら、このドンペリ、並のドンペリではない。なんと、このシャンパン、普通のドンペリの4倍の価格をつける特別キュべなのだ。恥ずかしながら、私はその存在自体を知らなかった。今まではドンペリ・ピンクが最高級と思っていた不明を恥じようではないか。

 ドン・ペリニョン師がヴィレール修道院でシャンパーニュワインにその生涯を捧げたことは有名な話だが、彼が造ったとされるシャンパンが今でもこの修道院に貯蔵されているという。実に3世紀以上にわたって大切に守られたワインがある。そのセラーの名をオノロジーと言い、同時にモエ・エ・シャンドン社の最高キュベの名にも冠されているのだ。並のドンペリが4本も買えるその価格設定におののきながら、何がどう違うのか興味津々である。このシャンパンを飲まなければ、結局シャンパンは何も始まらないということだろうか。


<味わい>
 抜栓後すぐロブマイヤー社バレリーナシリーズのシャンパングラスへ。液温7℃。すばらしい。この色合いはすばらしい。若干燻し気味の深い金色が細かい泡をたゆらせながら、深深と輝いている。香り自体には燻し香はなく、マロンフレーバーにバニラとハニー香が加わり、モンブランのケーキを彷彿とさせる奥深い香りが勢いよく立ち込めている。例えるならば、熟成の域に達した極上のコルトン・シャルルマーニュと、これまた極上のドライフルーツ的なシュバリエ・モンラシェを足して2で割らずに、シャンパーニュの独特の風情を加えた上で、もうなんだか分からない極楽浄土の世界に連れてこられたかのような香りが漂っているのだ。口に含めば、木目の細かい泡と美しい酸に守られながら、ググッと細胞に迫る勢い。舌にまとわりついて一向に離れないうまみ成分に感動しつつ、ずしりとした重量感に言葉を失う。一瞬のうちにパタパタパタッと全身の細胞が整列するほどの強烈なインパクトがすばらしい。まるでデザートワインを楽しんでいるかのような深い味わいに、これがシャンパーニュだと気づくのに時間がかかる。

 うっうううううううううううううううう。すばらしすぎる。今まで飲んできたシャンパーニュはいったい何だったのか。全くの別物。この味わいはあたかも地球以外の星で造られたかのごとくである。地球にもこの味わいを燻り出すシャンパンがあるのか。素晴らしいと言わずして、ほかに何を言えばいいのか。感動は全く冷め遣らず、このシャンパンを飲んでしまった以上、なんだかもう、壊れてもいいかもしれない、そんな劇的なシャンパンなのだ。

 間違いなく過去最高のシャンパーニュに出会ってしまった。クリュグもポール・ロジェのサー・ウイストン・チャーチルもアラン・ロベールのトラディションテタンジェのコント・ド・シャンパーニュボランジェのRDも、今宵この瞬間ばかりは影を潜めている。このドンペリはそれらのシャンパーニュとは明らかに違う個性を醸し出している。唾がどぼどぼと溢れ出るなか、このワインを冷静に判断できない驚異的な存在感に、ただただ脱帽してひざまづくのみである。

 2002年8月 モエ・エ・シャンドン社セラー蔵出
 1999年12月デゴルジュマン

<まとめ>
 おそらく並のドンペリを4本立て続けに飲んでもこの域には達しまい。今後恐らく出会うことのない超貴重なシャンパーニュとの思いがけない出会いに感謝するのみだ。しかし、何故にこんな偉大なシャンパーニュに出会えるのか。つくづく不思議である。

 今回のドンペリには門出のリキュールの代わりに同じシャンパンが不足分を補っているという。リキュールが入っていないので、完璧な保存状態が保てればあと10年は思う存分楽しめそうだが、シャンパンを立てるスペースはわがセラーにはなく、出会った時が飲み頃を信条としていて本当によかったと思ったりする。某所にあと3本あるらしいが、その価格を考えると、遠くから眺めるだけで終わりそうである。しかし、シャンパン好きを公言するとしたら、このワインは飲んでしかるべきだろう。

 ところで1985よりも偉大とされる1990ビンテージのそれは一体どんなことになっているのか。大変気になるところである。それはまた数年後のお楽しみということで・・・。


<補足>
 翌々日に再度堪能する機会に恵まれた。液温9℃で、2℃の温度差があった。結論から言えば、この僅かな差が非常に大きく感じられ、基調や要素こそ同じながら、別のシャンパンかと思えなくもないほどだった。泡がとろとろ感に吸収され、おいしさの波がワンテンポ遅れてやってくるかのような感覚が面白い。これだからワインは奥が深いのだと実感したりする。


以上



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