ブルゴーニュを歩こう4

<モレ・サン・ドニ>
 ジュブレ・シャンベルタンに続いて登場するのが、モレ・サン・ドニ村である。この村はかつてジュブレ・シャンベルタンに含まれていた経緯もあり、ワインの特徴は似ていなくもない。しかし極上のモレ・サン・ドニは極上のジュブレ・シャンベルタンとはやはり違う趣がある。黒系の果実味がしっかりしたタンニンを優しく包み込み、優雅で力強いワインといえるだろう。個人的な趣味によればドメーヌ・ユベール・リニエの古木から造られる一級ワインは、ピノ・ノワールが到達し得る頂点のひとつとしての味わいがある。デュジャークの村名ワインは赤・白ともに大変おいしい。フレデリック・マニャンのそれもいいし、もちろん5つの特級も味わい深い(クロ・サン・ドニは未試飲につき推定)。

 村の入り口はクロ・ド・ラ・ロッシュの大きな看板が出迎えてくれる。グラン・クリュ街道の右側一帯に広がるこの特級畑は、この村を代表しブルゴーニュ屈指のワインである。道をはさんで左側(国道側)は一級畑が連なっている。村の中心部は畑からも確認できる。教会を中心とした集落は畑から見ると近いように見えて、結構遠い。足の痛みと体全体にまとわりつく疲れがこの村での休憩を欲していた。なかなか近づかない村に苛立ちを覚えつつも、雨上がりの特級畑の空気はうまかった。  

 グラン・クリュ街道に山側で平行する道が地図上で確認される。その小道には特級クロ・サン・ドニや一級シャフォ、白でも有名なモンリュイザンなどが連なっているが、まあそこは次回のお楽しみということで先を急ごう。本当は行きたいところだが、日没との戦いに於いて私は早々に負けを認めた。  村に着くとジャン・ラフェの表札がある。ここかと嬉しくなるのも束の間、隣に小さなお店があった。雑貨屋さんのようで食べ物から洗剤の類まで売っていた。そういえば昼飯をとっていない。実際のところ、疲労と焦りと嬉しさが交差するためか空腹感はなかった。しかしいざ目の前においしそうなキッシュやケーキ、チョコレートなんぞが並んでいるとついつい食欲も出てくるというものだ。特に甘いものが欲しい自分に気付く時、右手にはアイスクリームと惣菜パンが握られていた。レジを打つふくよかなマダムが合計金額をフランス語で伝えてくると、なぜか自分が感じた数字とレジの数字が一致していた。んん。フランス語が理解できている。数字のやり取りのみではあるが、ちゃんと会話になっていた。某日仏学院で数字ばかりやっていた授業のありがたみがようやく実感きた瞬間でもある。ただその時の会計がいくらであったかは記憶になかったりするが。
 
 この村の惣菜パンはおいしい。クロ・デ・ランブレイの石垣に座りながら、なんとも素敵な食事である。質素だけれど大いに満足だ。棒状のアイスは日本と同じ味がするが、その棒にはあたりマークはついていなかった。フランスでもあたりが出れば一本もらえるのだろうか。少しだけ興味が湧いたりする。  

 ところでこの村にもすばらしい造り手がたくさんいる。デュジャーク、ユベール・リニエ、ロベール・グロフィエ、アンリ・ぺロ・ミノ、ペルナン・ロサンなど名前を呼ぶだけで唾も出てくる。彼らのドメーヌを訪問するのも楽しみのひとつだ。今回の訪問は、あまりにも突然だったことと休日と重なったことで彼らとのアポイントは不調に終わったが、門の前に立つだけでも次回のチャンスに胸が踊ったりする。

 特級クロ・デ・ランブレイは城のような巨大な館だ。1996より急速にその評価を上げているが、長らく低空飛行を続けていたらしい。「なるほど特級の名により高値で売れるために、品質が二の次になっていたのだろう」と勝手に想像させるほど大きな屋敷である。同じく特級畑のクロ・ド・タールも大きな看板を壁に掲げ、その存在感を村中にアピールしていた。クロ・ド・タールを所有するモメサンはブルゴーニュでも大手のネゴシアンであり、巨大ビジネスの成功が大きな屋敷に反映されていた。そしてその屋敷の横にはドメーヌ・ロベール・グロフィエがあり次回の訪問がますます楽しみである。右手にクロ・ド・タールの畑が見えてきた。もうじきボンヌ・マールの畑があることだろう。そこから先はいよいよシャンボール・ミュジニー村だ。


※ちょっと寄り道※
<クロ・ド・ラ・ロッシ>
 長熟タイプの代表格ワイン。モレ・サン・ドニにクロ・ド・ラ・ロッシありと言わしめる。ユベール・リニエ デュジャーク レシノーの評価はすばらしく、とっておきの日に大切な人と味わいたい。ドメーヌ・ポンソはあたりはずれが大きいが、あたれば大当たりするからすごい。


<クロ・サン・ドニ>
 モレ・サン・ドニ村はこの特級畑の名前に由来する。その割にいまいちメジャーになりきれていないのは、5つの特級の中では面積が一番小さく、ためにワインが少ないだろうか。まだ飲んだことがないので味わいについてはベールに包まれたままだ。


<クロ・デ・ランブレイ>  
 AOC法制定後初めて一級から特級に昇格したワインとして有名。1981年のことである。ドリンキング・レポート参照。


<クロ・ド・タール>  モメサン社の単独所有。歴史あるワインは1250年まで遡ることができる。そして開墾以来分割されることなく、フランス革命での没収を経てもなお、単独所有が守られてきた由緒正しいワイン。ドリンキング・レポート参照。


<ボンヌ・マール>
 ボンヌ・マールはシャンボール・ミュジニー村にまたがり、一部がモレ・サン・ドニ村にある。これはボンヌ・マールという畑が最初にあり、後に行政区画上の線引きがされたためである。この欄はシャンボール・ミュジニーに譲ろう。


つづく


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